事例
KDDIが「auサポート AIアドバイザー」で提供する、デジタルヒューマンを活用した次世代のカスタマーサポート体験
※本記事の内容、所属部署名などは2025年9月の取材時点のものです。
2025年3月、KDDI株式会社はauユーザーからの問い合わせに対応するオンラインサポート窓口に生成AIとデジタルヒューマン※を組み合わせた「auサポート AIアドバイザー」を導入することを発表しました。生成AIがお客さまの問い合わせの意図を解釈し、アバターが音声案内と視覚情報で回答するため、お客さまにとってわかりやすく、安心して相談してもらえる新たなカスタマーサポート体験を提供します。
通信業界にとどまらず、次世代のカスタマーサポートの先駆的なモデルとして注目を集める「auサポート AIアドバイザー」のプロジェクトは、これからのKDDIのビジネスにどのような価値をもたらすのか。このプロジェクトの運営主体であるパーソナル事業本部 カスタマーサービス本部、人格・アバター設計などの顧客体験設計を支援したDXデザイン本部、そしてアバターのプロトタイプ構築や、音声チューニングなどを担当したARISE analyticsのメンバーに話を聞きました。
※デジタルヒューマン
「人間のような外見を持つ3Dモデルを作成または使用する技術」の総称です。コミュニケーションや感情表現などを自動で行う最新技術を活用することで、さまざまなユースケースで「親しみやすさ」を表現しています。
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向田 さおり 氏
KDDI株式会社
パーソナル事業本部
カスタマーサービス本部
カスタマーサービス企画部長 -
清 進也 氏
KDDI株式会社
パーソナル事業本部
カスタマーサービス本部
カスタマーサービス企画部 デジタルエンゲージメントグループ
グループリーダー -
小寺 優輝 氏
KDDI株式会社
パーソナル事業本部
カスタマーサービス本部
カスタマーサービス企画部 デジタルエンゲージメントグループ
コアスタッフ -
仙崎 萌絵 氏
KDDI株式会社
パーソナル事業本部
DXデザイン本部
デザインセンター デザイン2G
コアスタッフ
(ARISE analyticsからの参加者)
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吉田 卓志
株式会社ARISE analytics
Beyond Analytics Division, AI-Centric Evolution Unit, KDDI GenAI CoE Team
アクセンチュア株式会社
Song Service Practice, プリンシパル・ディレクター -
佐々木 幸太
株式会社ARISE analytics
Beyond Analytics Division, AI-Centric Evolution Unit, KDDI GenAI CoE Team
アクセンチュア株式会社
Strategy&Consulting, コンサルタント -
田口 尚樹
株式会社ARISE analytics
Beyond Analytics Division, AI-Centric Evolution Unit, KDDI GenAI CoE Team
目次
AIアドバイザーでサポート業務のデジタルシフトを加速
――まず、パーソナル事業本部 カスタマーサービス本部のミッションについて教えてください。
向田氏 3,000〜4,000万人ものお客さまにご利用いただいているKDDIのサービスにおいて、個人のお客さまからのお問い合わせ窓口の運営を担っているのがパーソナル事業本部のカスタマーサービス本部です。なかでもカスタマーサービス企画部には、カスタマーサービス本部内の各セクションをとりまとめる役割もあり、中長期的な戦略の策定ほか、新たな技術の活用やサービス化の推進、お客さまの声を社内に届ける仕組み作りなどにも取り組んでいます。
清氏 そのなかでカスタマーサポート業務のデジタルシフトを加速させる役割を担っているのが、私が所属するデジタルエンゲージメントグループです。これまでauユーザーのお客さまからのお問い合わせは電話でいただくことがほとんどでしたが、チャットボットなどのデジタルチャネルをご活用いただくためのサービスを開発し、普及を促進していくことが私たちの大きなミッションとなっています。今回のプロジェクトのテーマであるデジタルヒューマンを活用した取り組みも、こうしたデジタルシフトへ向けた施策の一環です。
KDDI株式会社 向田 さおり 氏
――カスタマーサポート業務にデジタルヒューマンを活用する今回のプロジェクトは、どのような経緯でスタートしたのでしょうか。
清氏 2024年に当社の幹部が海外の展示会でデジタルヒューマンを体験したことがきっかけです。これまでもカスタマーサポート業務を電話からチャットへ移行するなどの取り組みは進めてきましたが、テキスト情報だけでのやりとりにはどうしても限界があります。しかし、電話でのサポートに慣れたお客さまにデジタルでのコミュニケーションへ移行していただくことは簡単ではありません。デジタルのハードルを下げ、多くのお客さまに新たなサポート窓口をご活用いただくうえで、デジタルヒューマンは有効な手段だと感じました。
小寺氏 日進月歩で進化する生成AIとデジタルヒューマンを組み合わせることで、人間の日常会話に近い感覚でサポートを行うことが可能になり、お客さまのお困りごとをよりスムーズに解決することができます。人と人とのコミュニケーションでは、視覚情報が大きな影響を与えると言われています。同じAIによる無人のサポートでも、親しみやすいアバターのほうが気軽にコミュニケーションしていただけると考えました。
仙崎氏 私はパーソナル事業本部のDXデザイン本部から今回のプロジェクトに参加して、デジタルヒューマンを活用した顧客体験全般の設計に携わりました。auサポート AIアドバイザーの開発では、まずAIアバターのプロトタイプをお客さまに使っていただき、ユーザーインタビューでご意見を集約するところからスタートしました。そこで印象的だったのは、話しやすい/安心感があるという声が非常に多かったことです。やはりアバターの顔が見えることで、人間に近い感覚で安心してご利用いただけるという確信が持つことができました。
KDDI株式会社 清 進也 氏
KDDI株式会社 小寺 優輝 氏
バックボーンまでこだわった沖縄生まれのAIアバター
――「auサポート AIアドバイザー」の開発では、どのような点が重要なポイントになりましたか。
仙崎氏 一番のポイントとなったのは「アバターの人格、キャラクター設計です。サービスのコンセプトを「自然に話せて、気軽に相談できる」と定めたうえで、それを具現化するための人格を設計していきました。この過程では、プロジェクトメンバーに加えて、経営企画のメンバーも招いてワークショップを開催し、お客さまが相談しやすいキャラクターについてのディスカッションを重ねました。
キャラクターをデザインするうえでは、バックボーンの設定も重要です。今回設計したアバターは「沖縄県出身の30代女性」「同い年の夫と3歳の娘と東京で生活」「通信会社のカスタマーサポートチームに所属」というバックボーンを持っています。また、その裏側にも「ときどき沖縄なまりが出る」「休みの日は家族と公園で遊んでリラックス」など、生身の人間と同様の細かいバックボーンの設定が行われています。
KDDI株式会社 仙崎 萌絵 氏
吉田 ARISE analyticsは、今回のプロジェクトでアバターのプロトタイプ構築や人格、音声のチューニングなどをご支援させていただきました。AIアバターを使ったサポート業務では、雑談のような日常会話を含めたさまざまなコミュニケーションが発生します。この際、お客さまとリアルな受け答えをするうえでは、やはり人間と同じようなバックボーンを持った人格設計が必要です。
佐々木 これまでAIの応答精度を上げるための開発は行ってきましたが、人間らしい自然な会話ができるように、AIアバターの人格をチューニングするというのは前例のないチャレンジです。短い開発期間の中でAIが応答する実際の出力を確認しながら、コミュニケーションを定義していきました。
カスタマーサポートとして適切な振る舞いは何か、不適切な発言を防ぐにはどうするべきか。イレギュラーな会話も含めて、起こり得るケースを徹底的に整理して、AIアドバイザーに落とし込んでいく必要がありました。ただし、すべての会話での具体的な応対をAIに学習させるのは容易ではありません。AIアドバイザーとしての基本的な骨組みを作り、その上に人格を重ねていくようなイメージで開発を進めました。
田口 例えば、回答できない質問に対して「わかりません」「答えられません」だけでは、お客さまの気分を害してしまうことになります。「お客さまは〇〇に関心があるのですね」と寄り添ったうえで、「申し訳ありませんが、その分野には詳しくないのです」と回答すれば、感情を伴った温かいコミュニケーションになります。
また、生成AIだからといって、すべての質問に答えなければならないわけではありません。例えば、相手がAIだとわかると、ITに関する専門的な知識を質問するお客さまがいらっしゃるかもしれません。たとえアバターが回答できたとしても、すらすら答えるのはサポートとして不自然です。
仙崎氏 実際にあった例では、お客さまが「仕事が忙しくて大変」と雑談をはじめたところ、「お忙しい中、本当にお疲れさまです。少しでもリラックスできる時間があると良いですね」と回答しました。相手をねぎらいながら寄り添う姿勢に、私たちの意図した人格が反映されていると感じました。
株式会社ARISE analytics 吉田 卓志
――感情を伴ったコミュニケーションという点では、回答の内容だけでなくインターフェースも重要ですね。
仙崎氏 プロトタイプのユーザーインタビューの際、容姿が美しすぎるアバターには話しかけにくいというお声もいただきました。できるだけ気負わずに話しかけられるAIアバターになるよう、ビジュアルも工夫しました。またプロトタイプの時点では、音声にAI独特のイントネーションがありました。実際、ユーザーインタビューでは外見よりも声に違和感を持つ方が多くいらっしゃいました。
佐々木 AIアバターの音声チューニングも過去にあまり例がなく、エンジニアとしてはチャレンジングなテーマでした。試行錯誤するなかで、自分の声をAIに学習させてみたところ、思いの外リアルな音声に近づいたので、KDDIさまにもご協力をいただいて、複数の日本語話者の音声パターンをAIに学習させ、自然な会話を実現する音声ファインチューニングの仕組みを作りました。結果として、非常に自然なAI音声が完成したと思います。
株式会社ARISE analytics 佐々木 幸太
新たなカスタマーサポート体験がお客さまからも高評価
――現時点でのauサポート AIアドバイザーに対するお客さまからの反応はいかがですか。また、今後はどのように展開していくお考えですか。
清氏 auサポート AIアドバイザーのお問い合わせ対応は、当初はごく一部の領域でスタートし、現在は対応領域を拡大しているところです。サポートを体験していただいたお客さまにはアンケートをお願いしていますが、「次のお問い合わせでもauサポート AIアドバイザーを利用したいですか?」という質問に対して、約9割のお客さまから「利用したい」というご回答をいただいています。
向田氏 アバターを使ったさまざまなサポート事例がある中で、オリジナルの人格から設計して、声までこだわったケースは、あまりないのではないでしょうか。コールセンターの現場をよく知る私から見ても、リアルなオペレーターに近づけたと思っています。お客さまから肯定的な評価をいただけているのは、KDDIらしさを追求してきた今回のプロジェクトの成果だと思います。
ただし、私たちの目的はデジタルヒューマンを世に出すことではなく、カスタマーサポートのデジタルシフト、それによる新たなサポート体験の提供です。今後は、現在もチャットで対応しているすべてのサポート領域にauサポート AIアドバイザーを導入していこうと考えています。
小寺氏 先日、お客さまから「あなたはAIですか? シーサーですか?」(設定上は沖縄県出身)というユニークな質問をいただきました。すると、「シーサーのような守り神になったつもりで、皆さまを見守っております」と回答していました。これは人間よりも秀逸な対応ではないかと驚きました。
田口 現在はお困りごとの解決策など、具体的なご案内はルールベースのAI、それ以外の日常会話に対しては設定した人格を基盤に、生成AIで対応しています。今後もさらなる進化につなげていきたいです。
吉田 すでにKDDIさまとは、auサポート AIアドバイザーを軸にカスタマーサポート体験をさらに進化させていきたいというお話をさせていただいています。それだけ将来が期待されるサービスになったこと自体が今回のプロジェクトの大きな成果だととらえていますし、今後もチャレンジを続けていきたいと考えています。
株式会社ARISE analytics 田口 尚樹
デジタルシフトから生まれるお客さまとの新たな信頼関係
――今回のプロジェクトにおけるARISE analyticsの支援に対する評価をお聞かせください。また、auサポート AIアドバイザーは今後、KDDIさまのビジネスにどのような価値をもたらすとお考えですか。
清氏 私たちはカスタマーサポートを専門とする部門で、AIなどの先進的な技術の知見が十分ではありません。ARISE analyticsが私たちに不足している知見を補ってくれるのは非常にありがたいです。それだけでなく、カスタマーサポートのデジタルシフト全般について、広い視野で一緒に取り組んでいただける点でも頼れるパートナーです。
向田氏 労働力人口の減少に伴う人手不足は、どの業界にも共通する社会課題です。多くの企業が業務のデジタル化に取り組む中で、KDDIはARISE analyticsとのパートナーシップによって、いち早くデジタルヒューマンという先進的な取り組みに着手することができました。お客さまから「KDDIのサポート=auサポート AIアドバイザー」と思っていただけるようになれば、サポート体験の向上と同時に、こうした社会課題の解決にもつなげていけると思います。
吉田 カスタマーサポートのデジタルシフトによってコミュニケーションの幅が広がれば、単なる問い合わせ対応以外にもお客さまの考え方や価値観など、よりパーソナルな情報が得られる可能性があります。これまでにないデータを活用してお客さまとの信頼関係をさらに高めていくうえでも、auサポート AIアドバイザーには大きな可能性が潜在しています。
向田氏 Webサイトに情報があふれ、スマートフォンで簡単にアクセスできる現在、お客さまがKDDIのサポートを利用する機会は減少する傾向にあります。それだけに、私たちは日常会話のような、お問い合わせ内容とは直接関係のないコミュニケーションも大切にしています。いつでも気軽にお問い合わせいただければ、お客さまにとって有益な情報をご案内するなどのコミュニケーションが可能になりますので、今回のプロジェクトをきっかけにカスタマーサポートのデジタルシフトをさらに加速していきたいと考えています。
KDDI株式会社
- 従業員数
- 61,288名(連結ベース、2024年3月31日現在)
- 住所
- 東京都港区高輪2丁目21番1号
THE LINKPILLAR 1 NORTH - URL
- https://www.kddi.com/