ダッシュボードを活用して代理店支援を強化 データドリブンな施策で収益を拡大するKDDIの営業DX

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※本記事の内容、所属部署名などは2025年2月の取材時点のものです。

通信市場における競争が激化する中、KDDIで個人顧客向けの事業を担当するパーソナル事業本部では、「au」「UQ」「povo」などの通信サービスの収益拡大を目指し、データドリブンなアプローチによるさまざまな改革を推し進めています。マーケティング領域では、データ分析によって明らかになったリスクスコアに基づく解約抑止や、顧客のライフスタイルや趣味・嗜好の分析による付加価値サービスの提案といった取り組みが大きな成果を生み出しています。

同様にパーソナル事業本部での継続課題となっていたのが、こうしたデータドリブンな施策を営業部門が自ら実践するための改革「営業DX」です。2023年度の沖縄セルラーでの取り組みをきっかけに、2024年度のKDDI本体でのトライアルを経て、2025年度から社内の営業部門、全国の販売代理店への本格的な展開がスタートする営業DXプロジェクトの背景にはどのような課題があったのか、また今後どのような成果が期待されるのか。マーケティング本部 R&Aセンターの大山英氏と、プロジェクトを支援してきたARISE analyticsの担当者に話を聞きました。

 

  • 大山様1

    大山 英 氏

    KDDI株式会社

    マーケティング本部
    R&Aセンター
    副センター長

(ARISE analyticsからの参加者)

  • 後藤さん3

    後藤 元太

    株式会社ARISE analytics

    Personal Growth Division,Division Director

    アクセンチュア株式会社
    ソング本部 アソシエイトディレクター

  • 松本さん2

    松本 佑紀

    株式会社ARISE analytics

    Personal Growth Division,
    Transformative Analytics Unit,
    Tableau Analytics Team, Team Lead

勘や経験から脱却し、データドリブンな営業施策へシフト

――KDDIで個人の顧客向け事業を担当するパーソナル事業本部では、「営業DX」と呼ばれる営業活動の変革プロジェクトに現在進行形で取り組んでいます。このプロジェクトの概要について教えてください。         

大山氏 政府からの携帯電話料金の値下げ要請や、異業種からの新たなプレイヤーの参入による競争の激化などを背景に、通信事業における安定的な収益をいかにして確保するかはKDDIにとって大きな経営課題となっています。そのためには、KDDIが提供している通信サービス「au」「UQ」「povo」において、新規にご契約頂くお客さまの最大化、及び既存のお客さまにより長くご利用頂くことで顧客基盤を広げていくことが重要です。また個々のお客さまのデータ利用を促し、最適な付加価値サービスをご利用頂くことによって、ARPU収入(1ユーザーあたりの平均収入)も向上していかなければなりません。

最近は、クーポン、ショッピング、エンタメなど様々な特典が利用できる定額制サービス「Pontaパス」において、コンビニ大手のローソンさまとのコラボ企画などを展開していますが(KDDIとローソンさまは20242月に資本業務提携)、このように個人のお客さまに向けて提案する商品やサービスが通信領域以外に広がることで、営業活動のあるべき姿も変わりつつあります。KDDIが提供するサービスに対して、より付加価値を感じていただくためには、データに基づいて個々のお客さまのライフスタイルや嗜好を把握したうえで、最適なサービス提案を行うデータドリブンな営業施策が強く求められるようになっているのです。

同時に、これらの施策を実践する営業部門に対しては、すべての営業社員がデータを身近に感じられる環境を提供し、データ活用の文化を浸透させながら、全国の代理店さまとの商談や施策の立案もデータに基づいて行う営業改革をボトムアップで進めていく必要があります。これこそが「データ民主化」をキーワードに、私たちR&Aセンターが中心となって進めている営業DXのプロジェクトです。

大山様KDDI株式会社 大山 英 氏

――営業DXに着手した背景には、通信市場における競争の激化に加えて、内部的な組織課題、業務課題もあったと聞いています。

大山氏 営業部門は組織の規模が非常に大きく数多の業務領域があることから、データの散在・データリテラシー教育不足等、様々な要因で一部仕事の進め方が属人的になってしまっているという状況でした。KDDIでは個人のお客さまに対して、auショップや量販店などの代理店さま経由で営業活動を行っていますが、属人化しがちな営業活動の課題は代理店さまでも同様でした。

もちろん、こうした課題についてはKDDIの内部からも改善を求める声が上がっており、2019年に当社役員が営業実績をリアルタイムで閲覧するためのダッシュボードを提供、2021年にデータ分析・民主化を推進する組織であるR&Aセンターが設立され、営業部門に対してデータ分析結果を提供するなど、パーソナル事業本部内でデータドリブンの芽は出始めていました。

また営業DXのきっかけとしては、当社のデータ基盤を構成するいくつかのオンプレミスのシステムが、数年以内にEOSL(保守サポートの終了)を迎えることもありました。こうした経緯からデータ活用プロセスのBPRに向けた機運が高まり、経営層からもデータドリブンの加速に向けた方針が示されることになりました。

データの抽出・加工が業務の3割を占める営業部門の課題

――営業DXのプロジェクトでは、データドリブン施策の実践に向けたパートナーとしてARISE analyticsに支援を要請しています。この理由はどこにあったのでしょうか。

大山氏 KDDIARISE analyticsの付き合いは長く、ARISE analyticsが設立された2017年当初からさまざまなプロジェクトでご一緒させていただいています。私も参加したR&Aセンターの立ち上げにおいても、散在していたデータを集約するための基盤整備や各種ダッシュボードの構築、また組織づくりの面でも支援をいただきました。

それ以前に自社のリソースでダッシュボードを構築したこともあるのですが、使い勝手や画面の見やすさなどで改善の余地があり、ARISE analyticsに協力をお願いしたところ品質が飛躍的に高まりました。R&Aセンターの役割としては、パーソナル事業本部におけるデータ利活用だけではなく、システム面でのガバナンス強化も求められていましたので、これを自社のリソースだけで進めていくのは難しい面があり、広範な知見を備えたARISE analyticsは信頼できるパートナーだと考えました。

後藤 パーソナル事業本部さまとのプロジェクトでは、2019年に経営層向けダッシュボードを開発した際もご支援させていただきました。短期間でのリリースはたいへんでしたが、これをきっかけにデータ活用の機運が高まって営業DXのプロジェクトにもつながっていますので、すばらしい機会を与えていただけたのだと思います。

後藤さん株式会社ARISE analytics 後藤 元太

大山氏 営業DXのプロジェクトでは、まず2023年上期から営業部門内の業務プロセスの棚卸しに着手しました。そこで明らかになった課題が、代理店さまとの商談に必要なデータの抽出や加工作業に大きな時間と手間を要していたことです。また、商談やデータ活用のスキルはベテラン社員と若手社員でかなりのギャップがありました。

その後、2023年の下期からはR&Aセンターと営業部門の双方からアイデアを持ち寄り、具体的な改善策を協議していきました。そして最終的にたどり着いたのが、営業社員・代理店さまが必要なデータを迅速に入手できるダッシュボードの提供、及び生成AIを活用した過去の知見による改善提案といった施策でした。

これらと並行して、2023年はKDDIグループの一員である沖縄セルラーさまにご協力いただき、ダッシュボードを使ったデータ分析環境提供について、1年をかけて実現性の確認や効果検証に取り組みました。ここでもARISE analyticsに支援をお願いしています。

松本 沖縄セルラーさまはKDDIさまと比べて事業の規模が限られてきますが、ダッシュボードを使ったデータ分析の効果など、営業DXで想定していた施策の妥当性を検証するうえでは貴重な機会だったと思います。

松本さん株式会社ARISE analytics 松本 佑紀

大山氏 幸いなことに、このプロジェクトではARISE analyticsの伴走支援の甲斐もあって、一定の業務の効率化や付加価値の創出など、当初見込んでいた成果を達成することができました。KDDIと沖縄セルラーは営業スタイルが少し違いますが、ダッシュボード上で常に最新の実績を把握するといった基本は変わりませんので、KDDI本体での営業DXを成功に導くうえでの裏づけとなる成果でした。

「データの民主化」によって、営業社員のスキルを底上げ

――沖縄セルラーでのプロジェクトの成果を受けて、KDDIの営業DXはどのように進められたのでしょうか。

後藤 沖縄セルラーさまのプロジェクトでは、営業の現場で積極的に活用してもらえるダッシュボードを開発して、業務に根付かせていくことの重要性を再認識しました。さらにARISE analyticsでは、データ分析に基づく施策の立案、実践までをお客さまの組織の中で内製化していただいて、自走できる環境を実現するところまでがミッションだと考えています。KDDIさまの営業DXでも、ダッシュボード活用の研修も含めて同様のご支援を継続しているところです。

大山氏 KDDIの営業DXでまず目指していくのは、データ利活用が不慣れな営業社員のスキルの底上げです。営業社員は代理店さまからさまざまな相談を受けますが、データの知見がなければ、それまでの勘や経験で判断するしかありません。しかし、ダッシュボード上に実績データに加えて示唆まで含めて提示することで、営業社員のデータ活用スキルの向上に加え、代理店さまにとって有益な情報を迅速に提案できるようになります。

そのためには、より多くのデータを用いた多角的な分析も必要ですので、R&Aセンターでは社内やグループ会社に散在しているデータの集約、横断した分析にも取り組んでいます。

後藤 これまで各部署で管理していたデータを1つにまとめるわけですから、それだけでもデータ量が膨大で管理がたいへんですが、こうしたデータは新たな商材やサービスプランが追加になれば増えていきます。さらにKDDIさまの経営層からはデータのスピーディな展開、活用といった要請もありますので、データ管理のガバナンスを維持しながら、PDCAサイクルを高速で回していくところは今後の課題だと認識しています。

大山氏 集めたデータの中には、営業社員にとって何を意味しているのかが分からないものも多くあります。営業DXでは「データ民主化」を掲げていますので、R&Aセンターはこれらのデータを読み解いて、できるだけ分かりやすい形で営業の現場に提供するようにしています。こうした努力を続けることで、営業社員のデータ活用スキルの底上げ、ダッシュボードの業務への定着が促進されるはずです。

ダッシュボードの活用によって商談に要する時間が約4割削減

――2024年9月から11月の3カ間で、今回のプロジェクトで開発したダッシュボードのトライアルも実施しています。

大山氏 どの業務を優先的にダッシュボード提供していくのかについては、まず「商談業務」をダッシュボードで実践していく合意が得られましたので、トライアルでは商談で利用頻度が高いデータを明らかにしながら、ダッシュボードのイメージを具現化していきました。

松本 ダッシュボードは将来的に代理店さまでの利用も想定しています。そこで、ダッシュボードにどのような機能やコンテンツ、KPIを実装すれば、具体的なアクションにつながっていくのかといった点を議論しました。営業部門のみなさまからは多くのフィードバックをいただくことができ、現時点で「社内実績確認用」「社内打ち合わせ用」「営業商談業務用」「店舗支援施策用」など、12のダッシュボード画面が開発されています

後藤 KDDIさまが取り扱う商品やサービスは広範ですので、KPIを細かく定義すると1,000を超えてしまいます。ある仮説に基づいてKPIを絞り込んだとしても100以上です。また、確認すべきKPIKDDIさまの施策や競合他社の動向によっても変わってきます。営業部門のみなさまがこれらを一つひとつ確認していくことはできませんので、やはり最新のデータを一目で把握できるダッシュボードの役割は重要です。

松本 特定の目標を達成するうえで、すべてのKPIが重要になるわけではありません。見るべきKPIの順番や優先度、因果関係があって、何か問題があったときは、それに紐づくKPIをクリアすることでゴールにたどり着けます。ダッシュボードの開発では、代理店さまとの商談で重要なKPIの因果関係などを営業部門のみなさまからヒアリングして、商談のシナリオを整理し、ロジックを組み立てていきました。

――今回のトライアルで確認された成果についてはいかがでしょうか。

大山氏 トライアルを終えて、ほぼすべての関係者からは肯定的な評価をいただけています。業務効率化の成果としては、ダッシュボードや生成AIの活用によって、商談業務に要する時間が4割程度削減される見通しであることがわかりました。こうした定量的な効果の可視化によって、営業DXの道筋が見えてきたこと大きな収穫です。

すでに主だった商材やKPIのダッシュボードへの実装は完了していますので、 20251Qからauショップの代理店を担当する営業社員が利用を開始し、2Qからは全国の代理店さまにも段階的に展開していく想定です。

現在、生成AIでは現在起きている課題の抽出や対策案の提示といった機能を営業社員に提供予定ですが、営業部門や経営層との会話の中では、生成AIを使って日報の要約や商談のシナリオづくりを自動化できないかといった要望が聞かれるようになっており、活用の幅を広げることを検討しています。

グローバルの知見でKDDIの変革プロジェクトを継続的に支援

――営業DXはこれからがいよいよ本番です。ARISE analyticsに対する今後の期待についてもお聞かせください。

大山氏 R&Aセンターとしては、今後はダッシュボード展開と並行して、社内に存在する複数のデータ分析ツールの一本化にも取り組んでいく考えです。これは機能の良し悪しではなく、組織として共通のツールを利用することで、データ活用のスキルを底上げするためです。こうした取り組みを通じて営業社員のリスキルも進み、営業DXをさらに前進させることがでます。

松本 すでにお伝えさせていただきましたが、ARISE analyticsはダッシュボードを作ったら終わりではなく、KDDIさまの組織の中で内製化していただくところまでがミッションだと考えています。それに加えて、営業領域での生成AI活用の先行事例などをキャッチしながら、他社に遅れをとらないように未来のロードマップを描いていく次のアクションも検討しなければいけません。

後藤 ダッシュボードについては、いずれはARISE analyticsが一切関わらないようになることが真の成功だと思います。私たちは変化し続けなければいけません。営業DXのプロジェクトが軌道に乗った後は、KDDIさまの中で新たな先行事例を生み出すべく、チャレンジを続けていきたいと考えています。そうすることで、KDDIさまの事業の成長にも貢献を果たしていけるはずです。

大山氏 どのような変革プロジェクトでも、グローバルの最新技術や他の業界の成功事例に関する情報は貴重ですので、ARISE analyticsが提供してくれる知見は私たちのプロジェクトの指針ともなるものです。今後も緊密なパートナーシップの中でKDDIに最適なご提案をいただければ、営業以外のさまざまな業務領域の変革にも取り組んでいけるのではないかと考えています。

 

KDDI株式会社

従業員数
61,288名(連結ベース、2024年3月31日現在)
住所
東京都千代田区飯田橋3丁目10番10号
ガーデンエアタワー
URL
https://www.kddi.com/
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