事例
大阪府河内長野市がKDDIと「スマートソリューションパートナーシップ協定 」を締結。デジタル技術を活用した社会課題の解決、地域共創を推進。
※本記事の内容、所属部署名などは2025年9月の取材時点のものです。
2025年7月3日、大阪府河内長野市とKDDI株式会社は、行政DXおよびデータ利活用の促進を目的とした「スマートソリューションパートナーシップ協定」を締結したことを発表しました。デジタル技術を活用した社会課題の解決、市民サービスの向上などを目指す本協定において、ARISE analyticsはKDDIグループの一員としてデータ利活用の促進支援を中心に、市民生活の利便性向上や地域の持続可能な発展に貢献していきます。今回、河内長野市の西野市長とARISE analyticsのChief Science & Technology Directorを務める浅野太郎が対談し、コーディネーターのARISE analyticsの篠崎太郎を交えて、今後の構想について意見を交わしました。
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西野 修平 氏
河内長野市
市長
(ARISE analyticsからの参加者)
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浅野 太郎
株式会社ARISE analytics
Chief Science & Technology Director 兼 Digital Consulting Sector, Innovation & Growth Division, Division Director
アクセンチュア株式会社
Song本部 Data&AI アジアパシフィック統括 -
篠崎 太郎
株式会社ARISE analytics
Digital Consulting Sector, Innovation & Growth Division, Applied DX Unit, New Biz Team
「消滅可能性自治体」からの脱却に向けて行政DXを加速
篠崎 今回、スマートソリューションパートナーシップ協定が締結された背景には、「消滅可能性自治体」に2回連続で選ばれた河内長野市さまの危機感があるとうかがっています。まず、私どもKDDIグループの役割を含めて、今回の協定に対する西野市長のご期待についてお聞かせください。
西野市長 近年、日本全体で人口減少が深刻な社会課題となっています。河内長野市も例外ではなく、2023年には人口が10万人を下回り、高齢化率も約37%と大阪府内でも高水準の状況です。そもそも「消滅可能性自治体」に選ばれてしまうということは、2050年までに20~30代の女性人口が半減することが見込まれ、同時に子供の数も減っていき、このままでは市民生活自体が立ち行かなくなることを意味しています。
それに対して、市民から行政に寄せられるニーズは年を追って拡大していく一方です。しかし、行政の側も十分な人的リソースを充てることが難しいため、負のスパイラルに陥っていきます。こうした状況を打開するためには、最先端の技術活用が不可欠です。近年はAIの精緻化が進み、実務で活用できるレベルになってきました。行政としてもAIやビッグデータといった最新技術の活用に舵を切らなければ、生き残っていくことができません。そこで、行政だけでは対応できない領域を専門家に補っていただきながら、「消滅可能性自治体」からの脱却にチャレンジしたいという思いから、今回の協定の締結に至りました。
河内長野市長 西野 修平 氏
篠崎 ありがとうございます。本協定において、ARISE analyticsはKDDIグループの一員として、どのような貢献を果たしていこうと考えているのでしょうか。
浅野 KDDIは現在、グループを挙げて全国の自治体と連携し、地域の皆さまが直面するさまざまな社会課題を解決しながら、持続可能で豊かな未来を共創することを目指しています。その中でARISE analyticsは、データアナリティクスとAIによってお客さまの課題を解決し、新たな価値創造を支援することをミッションとしています。
当社はKDDIとアクセンチュアのジョイントベンチャーというバックグラウンドもあり、技術だけにとどまらず、コンサルティングの領域でも強みを発揮できる組織です。技術だけでは市民の生活を変えることはできませんし、自治体の職員の皆さまの仕事も同様です。新たな技術を市民の生活や行政の現場に浸透させていくうえでのハードルを取り払い、溝を埋めていくことこそが、私たちARISE analyticsに対する期待だと考えていますので、河内長野市さまとも議論を積み重ねながら具体的な成果を目指していきたいです。
西野市長 これまで議論を重ねてきて気づいたことは、AIやDXは行政と非常に相性がいいということです。河内長野市では行政DXの一環として、2025年8月にアバターを使った接客システム「AIさくらさん」を導入しましたが、市民と職員双方の負担を軽減できるサービスとして好評です。今後、こうした技術の行政の現場への実装はグローバルスタンダードになっていきます。地域共創を掲げるKDDIグループと河内長野市が先陣を切って連携することで、他の自治体における行政DXの拡大にも貢献できるのではないかと考えています。
浅野 技術を広めるためには、多くの方々の協力が必要です。例えば、自治体がレベル4の自動運転を実装したいと思っても、ベンダーの力だけでは前進しません。そこでは市民の皆さまの理解や、実証実験のためのフィールドが不可欠です。こうした観点で、河内長野市さまは数年前から電動カートを利用したグリーンスローモビリティ「クルクル」の運行を開始されていますし、認知も高まっています。
このように、さまざまなフィールドで市民の皆さまの理解を得ながら、ユースケースを一緒に検討できることはお互いに意義のあることですし、最先端の事例として他の自治体に対しても示唆を与えることができるのではないでしょうか。
株式会社ARISE analytics 浅野 太郎
求められる「リフォーム&サステナブル」の視点
篠崎 浅野が申し上げたとおり、ARISE analyticsはKDDIグループの一員として、データコンサルティング、DXコンサルティングの領域を強みとしております。私たちのお客さまから寄せられる悩みとして、技術力をアピールするベンダーは多くても、その技術が実際に何に役立つのか、どのような課題を解決できるのかを示してくれるベンダーは少ないという点があります。自治体の支援においても、私たちは行政の現場が抱える課題をじっくりお聞きしながら、新たな技術で解決する方法を提案し、伴走させていただきたいと考えています。
西野市長 今回の協定においても、その点には大きな期待を寄せています。先日、河内長野市の姉妹都市であるアメリカ合衆国インディアナ州のカーメル市に視察に行きましたが、公的機関が管理する樹木や道路の損傷度、竜巻による被害状況、それらにかかる予算がすべて「見える化」されていることには驚かされました。こうした状況を見ると、日本の行政DXはまだまだ遅れていて、伴走していただけるパートナーの重要性を強く感じます。
また、行政DXは闇雲に行えばいいというわけではなく、どこから進めていくかが非常に重要です。これまで重ねてきたARISE analyticsとの議論においても、私たちにはなかった発想に気づかされることが多く、両者の認識をすり合わせていくことで、新たな技術の社会実装が実現していくことを期待しています。
浅野 ARISE analyticsが設立された2017年当時も、日本企業のDXは遅れていると言われていました。こうした中、私たちは一貫して日本企業のデータドリブン経営への転換を支援してきました。ここで重要なことは、課題の本質を深掘りし、それに対してコストメリットが高い提案を通じてユースケースを作り上げていくことにあります。ですから、西野市長をはじめ職員の皆さまからリアルな課題をお聞きして議論できることは、私たちにとって非常に意義のあることですし、そこから私たちの提案密度を高めていければと思っています。
西野市長 そうですね。行政の現場では「スクラップ&ビルド」と言われる時代が長く続いてきました。つまり、「やるか」「やらないか」の二者択一の世界です。しかし、現在は「リフォーム&サステナブル」の時代ですので、壊すのではなく代替手段を用意する、あるいは再構築することで持続的な自治体運営、財政運営を実現することに注目が集まっています。
例えば、以前であれば会議録の自動文字起こしを導入するために予算を申請しようとすると、当時は精度が低かったため、文字起こしを機械任せにするのはいかがなものかといった意見があったと思いますが、現在は精度も上がり、積極的にそうするべきという考え方に変わってきています。人が対応していた仕事を技術で補い、そこで生まれた時間を別の仕事に振り向けることも「リフォーム&サステナブル」ですから、これを応用できる仕事はいくらでもあると思います。
株式会社ARISE analytics 篠崎 太郎
人流データやドローンを活用したユースケースを議論
篠崎 現在、協定の締結から約2カ月が経過しました(2025年9月時点)。初期の構想としては、行政DXによる業務改善や、防犯・防災・高齢者の見守りなどを挙げておられましたが、現時点で西野市長が関心をお持ちの施策としてはどのようなものがございますか。
西野市長 1つめは、人流データを用いた公園など公共施設の利用実態把握です。データをいかにして施設の運用施策に活用できるかを追究してみたいと考えています。2つめは、ドローンを活用した防災・防犯です。まちの安全・安心をどのように実現するかは行政の最優先の課題です。3つめはスマートフォンから鍵を操作するスマートロックによる施設運営の効率化です。公共施設の鍵を人の力に頼らずに開け閉めすることができ、そこに安全・安心が兼ね備わった形で実装していくことができたらと考えています。
ARISE analyticsとのパートナーシップから生まれるイノベーション
篠崎 行政DXの先にある河内長野市さまの未来が本当に楽しみです。最後に、河内長野市さまの魅力について改めてお聞かせいただけますか。
西野市長 大阪府の南東端に位置する河内長野市は、大阪の中心地にも近いオアシスのようなまちで、時間の流れがゆっくりとして落ち着きを感じることができます。観心寺の如意輪観音坐像など国の重要文化財も多く、1000年以上にわたって受け継がれてきた歴史のあるまちですから、このまちの新たな1000年を市民の皆さんと一緒に創造していこうという意気込みで取り組んでいます。この数年は15歳未満の転入が転出を上回る傾向が続いていて、子育て世帯からも選ばれるまちになってきています。かつての大規模開発で生まれた団地群が “オールドニュータウン”から“ニューオールドニュータウン”に変わりつつあり、希望の兆しが見えてきました。
こうした中で、行政も前例や慣例にとらわれず「当たり前のことを疑う」を理念に、DXやさまざまな事業を通じて社会課題を解決するCSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)を意識した運営を行っています。
篠崎 CSV活動の一環として、西野市長が2025年に新設した「成長戦略局 営業部」は大きな話題になりました。
西野市長 河内長野市役所に「稼ぐ力」を定着させるために新設したのが「成長戦略局 営業部」です。その責任者(営業部長)は、マーケティングに精通した人材を民間からの公募で採用しました。大阪府の自治体でも営業部があるのは河内長野市が唯一だと思います。成果は早々に現れ始めており、営業部長をはじめ営業部ふるさと納税課の頑張りによって、魅力あふれる返礼品を次々と企画し、2025年4月から8月までの5カ月間のふるさと納税(個人版)の納税額は前年比で約1.3倍、8月だけでみると約2.8倍と大きく成長しています。※2025年9月の取材時点
篠崎 「稼ぐ力」を高めるための河内長野市さまの戦略的なマーケティングの取り組みは、他の自治体にとっても参考になるはずです。西野市長のお言葉を受けて、改めてARISE analyticsはどのような貢献を果たしていくことができるのでしょうか。
浅野 西野市長に初めてお会いしたときから、河内長野市さまを持続的に発展させるための明確なビジョンをお持ちの方だと常に感じてきました。私たちARISE analyticsもそれに応えるべく、さまざまな提案を行っていきたいと思いますし、すでにそれに対する多くのフィードバックもいただいています。今後はこれらの提案をより良い形で社会実装し、いかにして行政DXを実現していくかにかかっています。早い段階でユースケースを確立し、他の自治体に例のない河内長野市さまの取り組みを世の中に発信していきたいです。
西野市長 イノベーションは「組み合わせ」から始まります。今回の協定によって生まれた新たな組み合わせ、パートナーシップを、具体的な価値創出につなげて市民の皆さんに還元できるよう、これからもご支援いただければと思います。
浅野 ありがとうございます。本日はたいへん貴重なお話をお聞きすることができました。引き続きよろしくお願いいたします。
河内長野市
- 事業内容
- 大阪府の南東端に位置する河内長野市は、昭和29年に長野町、三日市村、高向村、天見村、加賀田村、川上村が合併して、大阪府内18番目の市制を施行。大阪の中心地から約30分という立地にありながら、市域の約7割は森林で豊かな自然環境に恵まれている。中世から受け継がれてきた国の重要文化財も多く、歴史を堪能できるほか、子育て支援も充実しており、近年は住みやすいまちとして、子育て世帯の転入も増えている。
- URL
- https://www.city.kawachinagano.lg.jp/
KDDI株式会社
- 従業員数
- 61,288名(連結ベース、2024年3月31日現在)
- 住所
- 東京都港区高輪2丁目21番1号
THE LINKPILLAR 1 NORTH - URL
- https://www.kddi.com/