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生成AIツール全社展開の実践 ーClaude Code導入時に押さえた観点ー
はじめに
ARISE analytics (以下 ARISE)のAI活用推進チームに所属する梅津です。会社内への生成AIツールの導入・展開を担当しています。
ARISEではすでにClaude、ChatGPT、Geminiなどさまざまな生成AIツールを導入しています。後ほど紹介するAI戦略を基にエージェントをより活用するべく、現在ではClaude CodeとCodexの整備に力を入れて取り組んでいます。
先日、人工知能学会全国大会(JSAI2026)にて、チームメンバーの宮本と共同で「生成AIの社内活用推進」の取り組みについて発表する機会がありました。Claude Codeのような生成AIエージェントは、ファイルの読み書きやコマンド実行など、これまでのSaaSツールより強い権限で動作します。そのため単に「契約してアカウントを配る」だけでは済まず、いくつもの観点で対策を積み重ねてきました。この記事では、その中でも特に気をつけてきたポイントを、実際の対応例とあわせて紹介します。
ARISEでの生成AIの導入指針
生成AIエージェントの導入を進めるにあたり、まず私たちが行ったのは「どこを見ながら進めるか」という指針づくりでした。海外の事例やレポートを調べていくと、生成AI・AIエージェントの導入において大きく5つの柱として整理されていることがわかりました。私たちもこれを参考に、ARISEなりの指針を検討しています。
- AI戦略:技術起点ではなくビジネスの目的・成果から逆算し、全社のAI戦略・ロードマップを描く柱
- 業務デザイン:個別タスクへのAI上乗せではなく、業務プロセス全体を人とエージェントの協働前提で再設計する柱
- 技術とデータ:エージェントを安定稼働させる技術・データ基盤を整える柱(アーキテクチャの標準化、ログや利用データによる可視化などを含む)
- ガバナンスとセキュリティ:AIを安全にスケールさせるため、ガードレール・統制・監督の仕組みを敷く柱
- 組織と文化:人・役割・働き方をAI前提に整える柱(体制・ルールの明文化、育成、評価制度など)

この5つの観点を軸に、ARISEが今どこまで来ているか(現在地)を棚卸しし、目指す未来へどう段階を踏んで進んでいくかのステップ感を定義しています。たとえば「まずは個人がツールとして使う」「次に業務システムと連携する」「やがて業務そのものを任せる」というように、活用レベルを段階的に引き上げていくイメージです。
5つの柱すべてを一度に語ることはできないので、この記事では「AI戦略」「技術とデータ」「ガバナンスとセキュリティ」の3本柱、なかでもClaude Codeを全社展開する際に実際に気をつけてきたポイントに絞って紹介します。
AI戦略
5つの柱の1つ目「AI戦略」は、最終的にどこを目指すのかという方向性そのものです。
Microsoftが2025年に発表した"Work Trend Index"年次レポートでは、AIエージェントと人間が協働する組織像として「Frontier Firm」という概念が提示されています。イメージとしては、従業員1人ひとりが複数のAIエージェントをオーケストレーションしているような働き方です。従業員は方針や達成したいことを指示するだけで、複数のエージェントがそれぞれ自律的にタスクを遂行してくれる、という世界観です。
私たちも、最終的にはこの姿を目指していきたいと考えています。そして、こうした世界を目指すという目標を会社としての方向性に掲げること自体に、大きな意味があります。目指す姿がはっきりすれば、残りの4つの柱で取り組むべきことも自ずと形づくられていくからです。たとえばエージェントが自律的にタスクを担う世界を目指すのであれば、エージェントツールの整備やエージェントを前提とした業務フローや環境構築を進めるという方針が自然と導かれます。組織と文化についてもAI戦略をメンバーに伝えていくことで、同じ方向を向きつつ活用の文化を醸成できると考えています。
技術とデータ・ガバナンス — Claude Code導入における4つのリスクと対策
ここからは、5つの柱のうち「技術とデータ」「ガバナンスとセキュリティ」に対応する、Claude Code導入時の具体的な対策を紹介します。
私たちは、Claude Codeを導入するにあたって、リスクを次の4種類に分けて考えました。
- LLMそのものに関するリスク
- エージェントとしての振る舞いに関するリスク
- ソフトウェアの配布・利用に関するリスク
- 運用・監査に関するリスク
以下、それぞれ「対策しなかったら何が起こるか」「ARISEでどう対応したか」の順で紹介します。
① LLMそのものに関するリスク
生成AIを業務利用する上でまず気になるのが、入力した情報がモデルの学習に使われてしまわないか、という懸念です。対策をしないと、顧客の機密情報やコードがモデル改善に利用されてしまうリスクがあります。ARISEでは、Enterprise契約を締結することで、入出力がモデルの学習対象外となるようにしています。
もう一つ気をつけたいのが、プロンプトインジェクションのようなリスクです。こちらは技術的な対策だけで完全に防ぐことが難しく、利用者側の扱い方に左右される部分が大きいのが実情です。ARISEでは、信頼性の低いサイトへのアクセスを遮断するといった技術対策を行ったうえで、利用者向けのセキュリティポリシーやガバナンスルールを整備し、何を入力してよいか・悪いかの周知徹底を進めています。
② エージェントとしての振る舞いに関するリスク
生成AIエージェントならではのリスクとして大きいのが、意図しない危険な操作を「自律的に」実行してしまう可能性です。たとえば「整理して」と頼んだだけのつもりが、重要なファイルをrm -rfで消してしまったり、.envのような認証情報を読み込んでしまったりするケースが想定されます。
他にも、利用者一人ひとりがMCPなどの外部ツールを個別に導入し、それをClaude Codeが意図せず呼び出してしまうことで、データの流出などにつながるケースも考えられます。
ARISEでは、Claude Code標準の設定機能(managed-settings.json)を使って、次のような制御をかけています。
- 認証情報の読み込みや権限の強いコマンド実行をdenyルールで完全ブロック(例:
.envや~/.ssh/配下の読み込み禁止、rm -rfや強制pushの禁止) - 利用可能なMCPサーバー・マーケットプレイスを、信頼できるものに限定
どのような観点で設定しているかを考え方が伝わる範囲で抜き出したイメージです。
{
// 起動時の最低バージョンの指定やwslに同じ設定を反映するように設定が可能です
"requiredMinimumVersion": "2.1.XXX",
"wslInheritsWindowsSettings": true,
"autoUpdatesChannel": "stable",
// マーケットプレイスやMCPの指定なども行うことができます
"strictKnownMarketplaces": [
{ "source": "github", "repo": "anthropics/claude-plugins-official" },
...
],
"allowManagedMcpServersOnly": true,
"allowedMcpServers": [
{ "serverUrl": "https://mcp.example.com/*" },
...
],
// 認証情報の読み込みや破壊的なコマンドはdenyで制限し、判断が分かれる操作はaskでユーザーに確認を取るようにしています。
"permissions": {
"disableBypassPermissionsMode": "disable",
"deny": [
"Read(//**/.env*)",
"Edit(//**/.env*)",
"Read(~/.ssh/**)",
"Bash(rm -rf *)",
"Bash(sudo *)",
"Bash(git push --force *)",
...
],
"ask": [
"Bash(git push *)",
"Bash(git reset --hard *)",
...
]
},
// Claude Codeの実行ログ収集用にenvに設定を入れています。
"env": {
"CLAUDE_CODE_ENABLE_TELEMETRY": "1",
...
}
}
「AIエージェントが何をできるか」を性善説に頼らず、設定ファイルとして明示的に制御しているのがポイントです。ただし、コマンドの引数まで文字列で縛るルールは表記の揺れに弱く、これだけで塞ぎ切れるものではありません。漏れやすい操作は deny ではなく ask に寄せて人の確認を挟む、確実に遮断したい範囲は OS レベルのサンドボックスや実行前フックと組み合わせる、という多層の設計が前提になります。
MCPサーバーやマーケットプレイスについては使えるものを信頼できる範囲に絞っていますが、他にも便利で安全なものも多く、利用者からの要望も強いため、使える範囲を広げていくことも欠かせません。ミニマムにスタートさせ、運用しながら緩和を広げていくことによって、スピード感を落とさないことを大事にしています。
③ ソフトウェアの配布・利用に関するリスク
3つ目は、ツールそのものの配布・バージョン管理に関するリスクです。個人ごとに設定を任せてしまうと、次のような問題が起こりえます。
- 安全設定(
managed-settings.json)が適用されないまま使い続ける利用者が一定数出てしまう - ローカル環境とWSL環境など、実行環境の違いによって管理者の意図した設定が適用されない
- アップデートをせず、脆弱性のある古いバージョンを使い続けてしまう
ARISEでは、社内で利用しているモバイルデバイス管理ツール(MDM)を活用し、設定ファイルやインストーラを全端末・全環境に一括配布する形にしました。あわせて、自動アップデートが可能なネイティブインストール版を社内ポータルからダウンロードできるようにしており、managed-settings.json側で許容する最低バージョンを指定することで、脆弱性のある旧バージョンを使い続けられないようにしています。
④ 運用・監査に関するリスク
最後は、利用状況をどう把握し、インシデント時にどう追跡するかという観点です。対策をしないと、「誰が・いつ・何を実行したか」を後から追えなくなってしまいます。
Claude CodeはOpenTelemetry(OTel)に対応しており、この仕組みを使ってメタデータログを収集する基盤をAzure上に構築しました。誰がいつどのツールを使ったか、といったセッション単位の詳細なログまで追える形になっています。
一方で、利用状況の把握についてはAnthropic公式のAnalytics APIやGUIも提供されており、アクティブ人数や利用コストといった全体傾向から、ユーザー単位のトークン数まで取得できます。私たちも、細かい監査が必要な場面ではOTel側のログを、日常的な利用状況把握にはAnalytics APIを、と使い分けています。これから展開を考える方は、まず公式のAnalytics APIから試してみるのがおすすめです。
ガイドライン — リテラシーによるリスク回避
ここまで①〜④の技術的な対策を紹介してきましたが、実はすべてのリスクを設定ファイルやツールだけで防げるわけではありません。
たとえば①のLLM層や②のエージェント層で紹介したリスクの中には、次のようなものもあります。
- 信頼できない外部データ経由のプロンプトインジェクション:不審なサイトへのアクセスを遮断するといった技術的対策を実施していても、怪しい指示を鵜呑みにしないかどうかは最終的に利用者自身の判断に委ねられる
- CLAUDE.mdなど、AIが参照する記憶ファイルが改ざんされるリスク:技術的な検知だけで防ぎきるのは難しく、運用ルール(レビュー体制など)で補う必要がある
- AIの出力を過信し、危険な操作をそのまま承認してしまうリスク:一度立ち止まって確認を求める設定(ask設定)は用意できても、最終的にYes/Noを判断するのは利用者自身
つまりリスクには、「システム側の設定で防げる範囲」と「利用者個人の判断に委ねざるを得ない範囲」があります。後者を設定だけで無理やり塞ごうとすると、かえって業務での使い勝手を損なってしまいます。
そこでARISEでは、技術的な統制と並行して、利用者自身が安全な使い方を意識できるよう、活用ポリシー、活用ガイドライン、セキュリティガイドラインなどの文書整備も併せて進めています。
managed-settings.jsonやMDMのような技術的な統制と、この文書体系による意識づけは、いわば二段構えの守りです。どちらか一方では不十分で、両輪があって初めて「安全に使える」状態に近づけると考えています。
まとめ
- Claude Codeのような生成AIエージェントの展開は「配って終わり」にできず、①LLM ②エージェント ③ソフトウェア ④運用・監査の4つの観点で対策が必要
- いずれも「対策しなかったら何が起こるか」を具体的に想像すると、必要な対応が見えてくる
- 戦術は生成AI戦略あってこそ意味を持ち、技術的な統制だけで防ぎきれない部分はポリシー・ガイドラインで利用者の意識に働きかける、という両輪が必要
生成AIエージェントの社内展開やガバナンス体制の構築について、もう少し詳しく知りたい、自社の状況に合わせて相談したいという方は、お気軽にARISE analyticsまでお問い合わせください。
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参考文献
- Anthropic, "Monitoring - Claude Code Docs", https://code.claude.com/docs/en/monitoring-usage
- Anthropic, "Usage and Cost API - Claude Platform Docs", https://platform.claude.com/docs/en/manage-claude/usage-cost-api
- OWASP, "Top 10 for Agentic Applications"
- Microsoft, "2025 Work Trend Index Annual Report: The Frontier Firm Is Born"(2025年4月), https://blogs.microsoft.com/blog/2025/04/23/the-2025-annual-work-trend-index-the-frontier-firm-is-born/