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NLP2026参加レポート:LLMの人間理解とPhysical AIから見る言語処理の広がり
はじめに
こんにちは、データサイエンティストの芹澤です。
この記事は、2026年3月9日 (月) 〜 2026年3月13日 (金) に開催された言語処理学会第32回年次大会 (NLP2026) の参加レポートとなります。私自身の関心に基づき、特に印象的だった発表をピックアップしてご紹介します。
学会概要
今年の言語処理学会は宇都宮にあるライトキューブ宇都宮で開催され、事前登録の時点で2,236名が参加、797件の発表があったそうです。大規模言語モデル (LLM) を中心とした盛り上がりを背景に、言語処理分野への関心の高さを肌で感じる大会となりました。
ARISE analyticsでも、企業展示ブースの出展やポスター発表で参加させていただきました。これらの詳細については公式noteで別記事を公開予定ですので、そちらもぜひご覧ください。
注目した発表① 言語資源・アノテーションと評価/心理言語学・認知モデリング領域
まず前提として、私はAIと人のコミュニケーションやインタラクションという分野 (Human Agent Interaction; HAI) に興味を持っており、以前から技術発信や学会発表を行っています。詳細については、以下の記事を参考にしていただけると嬉しいです。
- LLM時代に人は対話AIを信頼できるか?Human Agent Interactionの視点から考える
- 【JSAI2024】「LLM エージェントの人間との対話における 反芻的返答の親近感向上効果」についてポスター発表しました
今回の学会では、これらに近い心理言語学や認知モデリング分野の発表もいくつか見られましたので、特に注目した発表について僭越ながら紹介と個人の感想を書かせていただこうと思います。
Let's Put Ourselves in Sally's Shoes: 他人の靴プレフィリングは大規模言語モデルの心の理論を改善する
著者・所属:篠田一聡1, 北条伸克1, 西田京介1, 山﨑善啓1, 鈴木啓太1, 杉山弘晃1, 齋藤邦子1 (NTT株式会社 人間情報研究所)
プログラムリンク:Q7-3, 言語処理学会第32回年次大会(NLP2026) プログラム
LLMの心の理論 (ToM)を改善するために、他人の靴プレフィリングという推論手法を提案するという発表でした。ToMは人間が他者と効果的に相互作用するために不可欠と言われているものですが、現状では精度改善の余地があります。そこで、人間が他者視点に立って考える視点取得 (perspective taking) に着目し、プレフィリングという推論手法を用いることでToMを改善したとのことです。人間との対話における相互作用改善のために、人間が行うことをLLMに再現させるというアプローチについて、上記した私の研究でも近い手法をとっており、研究の一つの方向性として興味深いと感じました。また、こちらの研究は優秀賞を獲得されており、非常に注目度の高い発表の一つでした。
大規模言語モデルの性能に伴って向上しない意図推定能力は認知モデルと統合することで向上する
著者・所属:飯田愛結1, 大澤正彦1 (1. 日本大学)
プログラムリンク:Q7-8, 言語処理学会第32回年次大会(NLP2026) プログラム
LLMが言外の意味を読み取る意図推定の性能を上げるため、認知モデルを統合するという発表でした。LLMは「この部屋寒いね」という発話に対する「空調を調整してほしい」というような意図を読み取ることが苦手ですが、認知モデルを統合することで、こうした問題を解決できる可能性があります。そこで、LLMに認知モデルを埋め込む方法と、認知モデルをLLMに埋め込む方法の2パターンを実装し、皮肉に対する意図推定精度を測ったところ、多くの条件で精度向上が確認できたそうです。ただし、LLMと認知モデルの2つのモデルを使用している制約上、レスポンス速度に課題があるとのことでした。私は認知モデルについて詳しくは知っていなかったですが、今後の意図推定が必要な場面でのLLM活用において、有効なアプローチの一つなのではないかと思いました。
注目した発表②Physical AI領域
最近は、個人的な興味領域としてPhysical AI、すなわち物理世界で動作するAI (ロボット) に注目しています。Physical AIはAIやロボティクスの意味合いが強いイメージですが、今回のNLP2026でも関連する講演や発表が複数ありました。また、スポンサー参加で出展している企業でも、ロボットやロボットアームを展示していたり、これからPhysical AIに力を入れようと考えていると話されている企業が複数あり、今後のトレンド領域になるのではないかと考えています。
ここでは、特に注目した招待講演についてご紹介します。
招待講演:ロボット基盤モデルにおける言語の役割ー運動と言語の統合ー
講演者:尾形哲也1 (1. 早稲田大学/産業技術総合研究所/国立情報学研究所)
この招待講演では、ロボット分野でトップを走る尾形先生が、近年のPhysical AIに関連する研究の紹介やAIロボット協会 (AIRoA)の取り組みについて説明され、最後には質疑応答の時間も設けられました。
お話の中で印象に残ったのは、日本がどのようにこの分野に取り組んでいくべきかという内容でした。尾形先生によると、Physical AIはアメリカと中国の2強となっていますが、3位にあたる国はまだ明確には無いのが現状とのことです。そこで、日本での強みである産業ロボットや実ユースケースでVision Language Action Model (VLA) の活用環境を作ることで、3番目の立ち位置を目指せるのではないかとのことでした。Physical AIに関するニュースはアメリカや中国発のものが圧倒的に多く、他国の存在感が薄い現状を考えると、この方向性は一つの現実的な戦略として興味深いと感じました。
また、Physical AIの分野にこれから取り組みたい人に期待することという話も印象的でした。最近の若手はLLMによって大規模モデルを扱うことに慣れているので、その知見を活かしてVLAを積極的に試してほしいこと。また、LeRobotの低価格ロボットアームの登場などによって気軽に遊べる環境は出来ているので、まずは一度触ってみるべきという言葉が印象に残りました。ソフトウェア側の知見とロボティクスを掛け合わせることで新しい可能性が生まれるという視点は、この分野への参入を考える上で背中を押してもらえるような言葉でした。私自身も、まずは手軽なロボットアームなどを活用してVLAモデルの検証などをしてみたいと思いました。
おわりに
言語処理学会は今回初めて参加しましたが、発表者・聴講者双方のレベルが非常に高いと感じました。その分、自分の興味のある分野の最先端をキャッチアップでき、満足感の高い学会でした。加えて、言語処理学会にもPhysical AIが食い込んでくるとは思っていなかったため、今後この領域についてキャッチアップしていく中で言語処理の視点も併せて持つ必要があるのかなと思いました。
ここまでの内容で、言語処理学会や最新の言語処理系の研究に興味を持っていただけたら嬉しいです。来年、NLP2027で皆さんとお会い出来るのを楽しみにしています!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。